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第一話


 城に足を踏み入れた旅装束の二人の獣人は、背後で閉じた城門を見てこの城に囚われたことを知る。
 長旅の疲労と空腹を訴え、猫の獣人の娘はその場に座り込む。
 もう一方の獣人、狐の耳と尾を持つ男は、座り込んだ娘を残し城の奥へと歩を進める。
 
 取り残された猫の獣娘は、ひとしきりその場で悪態をつくと、ようやく耳と鼻を動かし辺りの様子を探り始める。
 だが漂うカビと汚物の臭い、微かに聞こえてくる物音と息づかいは、ひたすら不快と不安を煽るばかりである。
 男を追って城の奥へ進もうと腰を浮かせたその時、ふと視界の端に動くネズミの影を捉える。
 明らかに大きすぎるその姿に湧いた疑念も本能には逆らえず、娘は影を追ってその場を離れる。

 しばし後、城内の散策を切り上げ戻ってきた狐の獣人は、誰もいない入口を見て大きく溜息をつく、再びその場を離れる。

 

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